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社長ブログ

「わたし、定時で帰ります。」の主人公、東山結衣の父の発言に見え隠れする「根性論」の危険性を考察する

過度な根性論が現代社会にもたらす3つのデメリット

吉高由里子さん主演のドラマ「わたし、定時で帰ります。」の第七話では、毎日必ず定時で帰る東山結衣(吉高由里子さん)が、現役時代に家庭を顧みないで仕事に明け暮れた父、宗典(小林隆さん)と仕事に対する価値観の違いから喧嘩してしまうシーンが描かれている。
現代社会においてもモーレツ社員のごとく根性論を信奉し、残業を厭わず働いている人は少なくないと思われる。
そこで、現代社会において過度な根性論がもたらすデメリットを考察する。

過度な根性論のデメリットその1:「問題の修正が遅れる」

目標達成に向けた取り組みのアプローチ(手段、方法)が適切だった場合、その取り組みを続ければいつかは目標に到達できる。ところが、アプローチが不適切だった場合でも「上手くいかないのは根性が足りないからだ。もっと頑張れ!」と激励してしまうと、そもそも誤った方向に進んでいるので一向に目標に到達することはなく、下手をすると事態が悪化するはめになってしまう。

例えば営業成績が振るわない外回りの営業マンに上司が「お前はやる気があるのか。もっと多くの会社を訪問しろ!」と言ったところで、売れない理由が本人のやる気以外のところにあった場合は何の問題解決にもならない。そもそも営業で回っている地区の会社にニーズが見込めなければ担当を他の地区に替えるべきだし、ニーズがあっても競合他社がすでにがっちりと入りこんでいる場合は他社との差別化のポイントをどう訴求できるかを詰めなければならない。ところが根性論だけで突き進むと、「なぜ売れないのか」という原因分析と「どうしたら売れるのか」という打ち手に繋がらなくなってしまう。そのため、どれほど努力しても報われずに営業は疲弊してしまう。

過度な根性論のデメリットその2:「生産性の向上が遅れる」

根性論だけで突き進むと、アプローチを変えずに同じことを同じように行うので生産性は「本人の熟練度の向上分」しか上がらない。その仕事を開始して間もないうちは、ラーニングカーブ(学習曲線)が急なので頻繁にアプローチを変更するよりも習熟するまで同じアプローチを続けた方がよいかもしれないが、ラーニングカーブの傾きが水平に近づくに従って習熟度の向上スピードが鈍化していく。そうなってしまうと、生産性はもはや頭打ちになってしまい、さらなる改善はたいして見込めない。

例えば、電話帳で「あ」から五十音順に片っ端から営業のアポ取りをしている社員がいて、最初のうちは1日に50件かけて1件のアポが取れたとする。これを3年間続けたところ、テレアポの件数が1日に150件かけて10件のアポが取れるようになったとすると、これは習熟度の向上による大幅な生産性向上を達成したといえる。ところが、さらにこの先3年間も同様のペースで生産性が上がるとは考えられない。ラーニングカーブの勾配がなだらかになるためだ。

もし、その際に上司が「前年比売上30%増は必達の目標だ。もっと頑張ってアポを取ってくれ。」と指示を出したところですぐに壁に突き当たるのは目に見えている。ラーニングカーブの限界を突破し、さらに生産性の向上を目指すのであれば根性論を振りかざすのではなく、過去のデータを活用して優良顧客の候補群を抽出し、そこに集中的に営業をかけるように業務プロセスを見直すなど、抜本的なアプローチの見直しは必須だ。

過度な根性論のデメリットその3:「環境の変化への対応が遅れる」

自分たちを取り巻く環境が著しく変化した場合、それまでのやり方が通用しなくなることがある。ところがそれを、上司が「おれたちが前線に立っていた頃はそれでうまくいったんだ。今、うまくいかないのはお前たちの根性が足りないからだ。」と断定してしまうと、元々は正しかったが今はそうではないことを延々とやり続けることになってしまい、やはり事態は悪化の一途をたどることになる。

これまた営業を例にすると、外回り営業の担当地区における商店の多くが店主の高齢化に伴い、ここ数年で一気に世代交代があったとする。前の世代では営業マンが足しげく通うことで「昔からの付き合いだから」という理由で商品を買ってくれていたとしても、若い世代も同様とは限らない。むしろ、ネットで最安値の商品を検索して購入することの方が多くなるのではないだろうか。上司がそれに気が付かず、「うちの商品を買ってくれなくなったのは担当者が商店の訪問をさぼっているからじゃないか。もっと頻繁にお客様のところに通いつめろ。」と指示を出したところで事態が好転することはまずありえないだろう。

ここまで根性論が危険な理由を考察してきたが、筆者は「根性が全く必要ない」と主張する気はない。
ただ、東山の父親のように度を越した根性論は現在のビジネス環境では却って危険だということをご理解いただけたら幸いだ。